ケアマネジャーと総務部の「見えない壁」──同じ法人なのに、なぜすれ違うのか

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ケアマネジャーと総務部の「見えない壁」──同じ法人なのに、なぜすれ違うのか

はじめに ── 外の連携はうまくいくのに

サービス担当者会議で通所リハビリのスタッフと情報共有をする。福祉用具事業所の担当者と電話で調整する。ショートステイ先の相談員と利用者さんの状態を確認する。ご家族の話に耳を傾ける。

ケアマネジャーの仕事は「連携」の連続です。立場も専門性も異なる人たちと、利用者さんのために協力し合う。それが日常であり、あなたはその調整役として日々奮闘しています。

ところが、同じ法人内の総務部とのやりとりになると、途端に難しくなることはありませんか。

「現場のことをわかってくれない」「こちらの事情を汲んでほしい」──そんな思いを抱えながら、どこかぎこちない関係になってしまう。外部の事業所とはスムーズに連携できるのに、身内である総務部との間に「見えない壁」を感じる。

この記事では、なぜその壁が生まれるのか、そしてどう向き合えばよいのかを考えます。

「元ケアマネ」がいるから、余計にややこしい

総務部に元ケアマネジャーや介護現場の経験者がいる法人は少なくありません。そして、これが話をややこしくしていることがあります。

「現場のことをわかっている人がいるはずなのに、なぜ通じないのか」

あなたがそう感じるのは自然なことです。しかし、ここに落とし穴があります。

立場が変われば、見える景色が変わる

元ケアマネジャーであっても、総務部に異動した時点で労務管理の立場に変わっています。かつては「利用者さんのために残業してでも対応する」という価値観で働いていたかもしれません。しかし今は、「職員の労働時間を適正に管理し、法令を遵守する」ことが仕事です。

立場 第一に守るもの 判断基準
現役ケアマネジャー 利用者の生活と権利 ケアプラン、介護保険法、倫理綱領
総務部(労務担当) 職員の労働環境と法令遵守 労働基準法、就業規則、36協定

同じ人でも、どの椅子に座っているかで見える景色が変わるのです。元ケアマネジャーだからこそ「現場の大変さはわかるけれど、それでも労働基準法は守らなければならない」と考えている可能性もあります。

利用者のためなら残業も仕方ない? ── 2つの「正しさ」のぶつかり合い

ケアマネジャーとして、こんな場面に心当たりはありませんか。

  • 月末の給付管理が立て込んで、気づけば退勤時刻を大幅に過ぎていた
  • 利用者さんの急変対応で、予定外の訪問や調整が必要になった
  • サービス担当者会議の日程調整がうまくいかず、夕方以降に開催せざるを得なかった

「利用者さんのために必要なことをしている」──あなたの認識はそのとおりです。

しかし総務部から見ると、「残業が常態化している」「36協定の上限に近づいている」「このままでは法令違反になりかねない」という別の現実が見えています。

これはどちらが正しいかという話ではありません。2つの「正しさ」が、同時に存在しているのです。

ケアマネジャーの「正しさ」

  • 利用者の生活を守ることが最優先
  • 必要なケアマネジメントを省略することはできない
  • 相手の都合に合わせて動くのがこの仕事

総務部の「正しさ」

  • 職員の健康と権利を守ることが使命
  • 労働基準法違反は法人全体のリスクになる
  • ルールを守ることで、結果的に職員を守れる

どちらも「誰かを守ろうとしている」という点では同じです。守る対象と、依拠する法律が違うだけなのです。

外部連携と内部連携、何が違うのか

ここで、日々の業務を振り返ってみてください。

通所リハビリの相談員、福祉用具専門相談員、ショートステイの生活相談員、訪問看護師──こうした外部の専門職とは、比較的スムーズに連携できていませんか。

なぜでしょうか。

外部連携がうまくいく理由

  • 共通の目的が明確:利用者さんの生活を支える、という一点で一致している
  • 専門性への相互尊重:「そちらの専門領域はお任せします」という信頼がある
  • 距離感がある:毎日顔を合わせるわけではないので、適度な礼儀が保たれる

内部(総務部)との連携が難しい理由

  • 目的が重ならない場面がある:利用者支援と労務管理は、時に相反する
  • 専門性が見えにくい:労務管理の専門性を「現場を知らない事務仕事」と捉えてしまいがち
  • 距離が近すぎる:同じ法人内だからこそ、遠慮がなくなり感情的になりやすい

外部の事業所とは「よそ様」として丁寧に接するのに、総務部には「身内なんだからわかってよ」という期待が生まれる。この期待のズレが、すれ違いの原因になっています。

総務部を「法人内の他事業所」と捉えてみる

ひとつの視点の転換を提案します。

総務部を「法人内にある別の事業所」と捉えてみるのはいかがでしょうか。

通所リハビリや訪問介護事業所と連携するとき、あなたは相手の立場や制約を理解しようとするはずです。「通所リハビリの送迎時間の都合」「訪問介護のサービス提供責任者のシフト」──相手の事情を踏まえて調整するのが、ケアマネジャーの仕事です。

総務部にも、彼らなりの「事情」があります。

  • 労働基準監督署の調査が入れば、対応するのは総務部
  • 36協定違反があれば、是正勧告を受けるのは法人
  • 職員が過労で倒れれば、労災対応をするのも総務部

彼らは「嫌がらせ」で残業を制限しているのではありません。法人と職員を守るために、自分たちの仕事をしているのです。

「伝え方」を変えてみる

総務部とのやりとりで、伝え方を少し変えるだけで関係が改善することがあります。

避けたい伝え方

  • 「現場のことをわかっていない」
  • 「利用者さんのためなんだから仕方ない」
  • 「昔は現場にいたのに、なぜわからないの」

これらの言葉は、相手の立場を否定するメッセージになります。元ケアマネジャーであれば、なおさら「自分は現場をわかっている」という自負があるため、反発を招きやすくなります。

試してみたい伝え方

  • 「この時期は給付管理で業務が集中するので、事前に相談させてください」
  • 「利用者対応で予定外の残業が発生しそうな場合、どのように報告すればよいですか」
  • 「労務管理の観点から、この働き方で問題がないか教えていただけますか」

ポイントは、相手の専門性を認めた上で相談するという姿勢です。これは、サービス担当者会議で他職種に意見を求めるときと同じです。

「連携」のプロだからこそ、できること

あなたはケアマネジャーとして、日々さまざまな立場の人と連携しています。

利用者の希望と家族の不安。医療職の見立てと介護職の気づき。制度の枠組みとその人らしい暮らし。相反するように見えるものの間に立ち、調整するのがケアマネジャーの仕事です。

その力を、総務部との関係にも使ってみてください。

総務部は敵ではありません。「職員を守る」という別の角度から、法人を支えている仲間です。お互いの「正しさ」を認め合うところから、関係は少しずつ変わっていきます。

まとめ ── 同じ法人の、違う専門職として

視点 ケアマネジャー 総務部
守りたいもの 利用者の生活 職員の労働環境
依拠する法律 介護保険法 労働基準法
日常の関心 ケアプラン、サービス調整 勤怠管理、法令遵守
共通点 誰かを守ろうとしている 誰かを守ろうとしている

外部の事業所と連携するときと同じように、相手の立場と専門性を尊重すること。元ケアマネジャーがいるからといって「わかってくれるはず」と期待しすぎないこと。

同じ法人の中で、違う専門性を持つ者同士として。利用者を支える仕事と、職員を守る仕事と。どちらも欠かせない役割を担っている──そう捉え直すことで、「見えない壁」は少しずつ低くなっていくのではないでしょうか。

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