はじめに ── 「AIがケアプランを作れるなら、私たちはいらない?」
「AIがすごい速さで文章を書けるようなら、ケアプランだって作れるんじゃないか」「利用者さんがAIに質問して、その回答をオンラインで提出するだけで済む時代が来るんじゃないか」──そんな声を、最近よく耳にします。
あなたもどこかで、同じことを考えたことがあるかもしれません。
この記事では、その問いから逃げずに、正面から考えてみたいと思います。AIが何を得意とし、何を苦手とするのか。そして、ケアマネジャーという仕事の本質はどこにあるのか。介護・福祉の現場で培ってきた「あなたの力」を改めて問い直す機会にしてください。
AIにできること ── 「データを読む力」はたしかに本物
まず、正直に言います。AIはケアプランに関連する多くの「作業」を代替できる可能性があります。
たとえば、利用者の基本情報(年齢・要介護度・傷病名・ADL)を入力すれば、それに応じたサービスの組み合わせを提案することは、今のAIにも十分可能です。「要介護2、一人暮らし、膝関節症、歩行に不安あり」という情報を与えれば、「訪問介護・通所介護・福祉用具の活用」といった一般的なプランの骨格を、AIは数秒で出力できます。
これは、膨大な過去の記録から「このパターンならこのプラン」という傾向を学習しているからです。いわば、大量の事例を読み込んだ新任職員が、マニュアル通りのプランを素早く作るような状態です。
「マニュアル通り」では届かないもの ── アセスメントの本当の意味
ここで、少し立ち止まって考えてみてください。
あなたがアセスメントをするとき、書類の情報だけで判断を下すことがありますか?
「ADLは自立と書いてあるけれど、訪問してみたら台所に立つのを怖がっていた」「家族は『本人の希望』と言っているが、本人と二人きりになると全然違うことを話してくれた」── こうした場面は、介護の現場では珍しくありません。
AIが読めるのは、文字になった情報だけです。利用者の表情、沈黙の重さ、家族関係の微妙な力学、生活史の背景にある価値観。これらは、ほとんどの場合、書類には書かれていません。
ケアマネジャーのアセスメントは、「書いてあることを読む」ことではなく、「書かれていないことを感じ取る」ことに本質があります。AIにこの力はありません。
「AIにケアプランを作ってもらい、オンラインで提出」は本当に成り立つか?
では、利用者自身がAIにケアプランを作ってもらい、それをオンラインで行政や事業所に提出するというシナリオは、現実的でしょうか。
いくつかの観点から考えてみます。
情報の非対称性という問題があります。
利用者が「自分に必要なサービス」を正確に把握できているケースは、多くありません。「ヘルパーさんに来てほしい」という言葉の裏に、実は孤独感や不安があったり、「施設には入りたくない」という言葉の裏に、家族への遠慮があったりします。本人がAIに伝えた情報が、本当のニーズを反映しているとは限りません。
制度の複雑さという問題があります。
介護保険制度は、給付管理・区分支給限度基準額・加算の組み合わせなど、専門的な知識なしには正確に扱えない仕組みになっています。利用者がAIとのやりとりだけで「制度上も適切なプラン」を作れるかというと、現状では非常に難しいと言わざるを得ません。
「合意」のプロセスという問題があります。
ケアプランは、利用者・家族・サービス事業所・医療機関など、複数の関係者の合意のもとで成り立ちます。担当者会議は、それぞれの視点を持ち寄り、ときに利害を調整しながら、利用者の生活を支える「方針を共有する場」です。AIがプランを作って提出するだけでは、この合意形成のプロセスは成立しません。
ケアマネジャーにしかできないこと ── 「制度」ではなく「生活」を見る力
以上の話をまとめると、AIが代替しにくいケアマネジャーの役割は、次の3つに整理できます。
- 関係性の中でニーズを引き出す力 ── 信頼関係があってはじめて語られる本音を聞き取ること
- 多職種・多機関との調整力 ── 医療・介護・行政・家族の間に立ち、利害を調整しながら合意を作ること
- 生活の文脈を読む力 ── 利用者の歴史・価値観・家族関係を踏まえ、「その人らしい生活」を描くこと
これらは、どれも「データの処理」ではなく、人間同士の関係の中でしか生まれないものです。
AIはどう使うべきか ── 「後輩職員」として働かせる
「AIに仕事を奪われる」と構えるよりも、「AIを後輩職員として使いこなす」という発想の転換が、これからのケアマネジャーには求められるかもしれません。
たとえば、こんな使い方が考えられます。
- アセスメントシートの下書きを作らせて、抜け漏れを確認する素材にする
- 給付管理の計算や書類の整理をAIに任せ、利用者との面談時間を増やす
- サービス担当者会議の議事録の文字起こしを手伝わせる
- 支援経過記録の文章を整えてもらう
後輩職員に雑務を頼み、自分は判断と調整に専念する。これは、ケアマネジャーとして本来あるべき姿そのものではないでしょうか。
変わるのは「何をするか」ではなく「何に集中するか」
介護保険制度が始まった2000年以降、ケアマネジャーの仕事は何度も変化してきました。書類のデジタル化、モニタリングの頻度変更、特定事業所加算の要件……そのたびに「仕事が変わる」と言われてきましたが、利用者の生活を支えるという本質は変わっていません。
AIの登場も、同じ文脈で捉えることができます。変わるのは作業の手順であり、変わらないのは「利用者の生活に寄り添う専門職としての役割」です。
むしろ、AIが定型的な作業を担ってくれることで、ケアマネジャーは本来最も力を発揮すべき「人と向き合うこと」に、より多くの時間を使えるようになる可能性があります。
まとめ
| 問い | 考え方 |
|---|---|
| AIはケアプランを作れるか? | 定型的な骨格は作れる。しかし「本人のニーズを引き出すプロセス」は代替できない |
| 利用者がAIにプランを作ってもらえばよいのでは? | 情報の非対称性・制度の複雑さ・合意形成のプロセスという3つの壁がある |
| ケアマネジャーの仕事はなくなるか? | 「作業」の一部はAIに移行する。しかし「関係性・調整・生活の文脈を読む力」は残る |
| では何をすればよいか? | AIを「後輩職員」として活用し、専門性の高い仕事に集中する |
AIの発展は、ケアマネジャーの仕事を消すものではありません。むしろ、「あなたにしかできない仕事」を浮き彫りにするものだと、私は考えています。
利用者の言葉の裏にある思いを聞き取り、関係者の間に立って合意を作り、その人らしい生活を一緒に描く。そのために20年・30年かけて積み上げてきた力は、AIには学習できないものです。
時代が変わっても、あなたの現場の力は確かに必要とされています。

